高齢化への不安とは
いつもと同じように午前の仕事を終え、コーヒーを飲みながら休憩をしていると、「今よりももっと高齢化が進むと私達も大変になるなあ」と隣に座っていた先輩が呟いた。
「え?」と私が上ずった声で聞き返すと、先輩は深刻な顔で「え、じゃないのよ。お年寄りが増えるとその分要介護高齢者も増えるでしょう? そうなるとホームヘルパーの数も足りなくなって、回らなくなる可能性もあるの」と言い、ため息をついた後、「でも、高齢化の進行は私達にはどうしようもできないのよ」としみじみ言った。私はああ、と心の中で納得してコーヒーの残りを流し込んだ。
先輩の話を聞いて、そういえば昨日の新聞の見出しも「高齢化」だったことを思い出しました。今でも大変なのにこれ以上大変になったらどうなるのかなと少し不安になります。ホームヘルパーは大変だけど、やりがいがあって人見知りが酷かった私でもしっかりやれています。人と触れ合うことが億劫だった私が、訪問先のおじいさん、おばあさんに早く会いたいと思うようになりました。
以前は仕事をしていると後ろから不安が追いかけてくるような気がして、顔も上げられずにとにかく進み続けて、挙句の果てに不安の海へと落ちたこともあります。でも、お年寄りと触れ合うことで助けられました。
「高齢化」は私から見えないくらい後ろにいて、時間が経つにつれじわじわと私に追いつき、最後には追い越して壁のように立ちはだかって前を見えなくするかもしれないと思いました。
私がもやもや不安に駆られていると、先輩が「ほら、辛気臭い顔してないで午後もがんばるわよ」と言い、立ち上がりました。先輩の言葉で少し気が楽になった気がします。
訪問先に着くと、おばあさんが待っていました。おばあさんは私を見るなり、「おかえり」と言いました。
「おかえり」、その言葉が燦然と輝く矢のように飛んできて、私の前で広がり、私に付き纏っていた不安を取り払ってくれたような気がしたのです。おばあさんが私を待っていてくれたことが嬉しくて、ホームヘルパーをやってて良かったなと思いました。
もちろん高齢化への不安はあります。仕事も大変になるかもしれない。それでも、訪問先の人たちが私達を待っていることは変わりません。待っている人たちの元へ向かって、私は自分がやるべきことをやろうと思います。